「鳥取さん」という名字

山口さん、石川さん、福島さん、福井さん、千葉さん・・・都道府県名と同じ名字のかたはたくさんらっしゃいます。では、「鳥取 さん」は?

鳥取県に住んでいながら、これまで「鳥取」という名字を聞いたことがなく、それゆえ、あまり意識したことがありませんでしたが、先日、鳥取 県小中高児童生徒地域研究発表会で、鳥取女子高校社会部による「鳥取さん」についての調査・報告がありました。とても興味深い内容だったので ご紹介しましょう。

鳥取女子高校社会部は、県外移住史を研究テーマにするなど、長年、鳥取県に因んだ調査活動を行っています。
鳥取県総合情報誌「鳥取NOW」の最新号でも取り上げていますが、明治時代に福島県郡山市の安積(あさか)地方に移住した鳥取藩士族の移住 と開拓の歴史を調査し、その歴史解明のきっかけとなる資料を見つけたりと、その活動は高い評価を得ています。

そんな活動をしているうちに、○○県にも「鳥取」という地名があるとか、××県には鳥取からの移住者で「鳥取」という名字の人がいるなどと いう情報が集まりはじめたのが、この調査を始めるきっかけとのこと。

調査では、「鳥取」という言葉の起源が古代の神話に由来していることから日本最古の歴史書『古事記』や『日本書紀』を読み、日本最初の漢和 辞典『倭名抄(わみょうしょう)』など各種文献も参考にしながら、徹底的に「鳥取」を調べあげています。

それによると、「鳥取」という文字が初めて登場したのが『古事記』。『古事記』に白鳥や鶴を捕獲して朝廷に献上することを専門の職業として いた人たちが「鳥取部(ととりべ)」と呼称されたことが「鳥取」という言葉のはじまり。

一方『倭名抄』では、「鳥取」という地名が、国名、郡名にはでてきませんが、「鳥取郷」という郷名があり、「鳥取部」が置かれた場所が「鳥 取郷」と称されています。

かつて姓は住んでいる場所、職業に基づいてつけられていたことから、先祖が「鳥取部」か「鳥取郷」の住人であった、もしくは、鳥取から移住 した人が名乗った、と「鳥取」姓の由来について分析しています。

さて、この「鳥取さん」、現在全国にどのくらいいらっしゃるのか。同校社会部では、全国の電話帳から「鳥取」姓を抽出し、北海道から鹿児島 まで357世帯あることを確認。一世帯あたりの家族数や電話帳には掲載されていない人もあることなどを勘案した上で、全国各地に約1,800 人の「鳥取さん」がいると推定しています。

さらに調査は続き、「鳥取さん」全員を対象としたアンケート調査や北海道から愛媛まで16カ所の現地調査も実施。
その結果、家紋などから15の“鳥取さん一族”が確認され、このうち、5つの一族、岩手県新里村(19軒)、岡山県津山市(18軒)、岡山県 鏡野町(10軒)、香川県豊中町(35軒)、福岡県大木町(11軒)については、鳥取から移り住んだと伝えられていることが判明しています。

「先祖は鳥取因幡国守で平家方の武士であったが、壇ノ浦の戦いで敗れ、一族とともに落ちのびた」(岩手県新里村)、「500年ほど前、尼子の 家来として鳥取に住んでいた」(香川県豊中町)、「秀吉の鳥取城攻めに敗れ、一族郎党を従えて移った」(福岡県大木町)など。
というような調査報告でした。

ここで不思議なのが、この「鳥取さん」、なぜか鳥取県内には一人もいないということ。鳥取県にもかつて「鳥取部」が置かれ、それが「鳥取県」 という県名の由来となっているとされているくらいなのに、なぜなのでしょうか。

鳥取県から移住していった人たちが、遠く離れた故郷、鳥取を懐かしむ心から「鳥取」姓を名乗り、これを大切に受け継いでいったからこそ、鳥 取県内ではなく、県外に鳥取姓が多く残っているのかもしれません。

「鳥取さん」へのアンケート調査で、「鳥取」という名字がいい名字だと思う人が51.0%と、あまり好きになれないと答えた人9.5%を大 きく上回っているなど、「鳥取」姓に誇りをもっていたり、鳥取に郷愁を感じている人たちが多い、という調査結果がそのことを裏付けているよう な気がします。


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