昔、立見峠に、おとん女郎ちゅう狐がおつてなぁ。よう人をだましとつただつてえな。 ある日のこと、二人の元気な若者が「ひとつあの悪賢い狐を退治したらあか」と、晩方になって出かけただって。 ちようど道端でおとん女郎が、若あて美しい女に化け、そこにあるお地蔵さんを赤子にしたのを見て、こっそり後をつけていきたところ、 一軒の家の前に立ち止ま りとんとん戸をたたいて、中にひゃあていったさあな。 二人がそうつとのぞいて見たら、おじいさんとおばあさんが、赤子をでゃあて(抱いて)喜んどんなった。二人の若者は「その美しい女は狐が化けとるんだで。 その赤子も狐がかえた石のお地蔵さんだが。だまされたらいけんで」と、今見てきたこと話したが、おじいさんとおばあさんは、本気にしてごされなんだ。 そこで若者は、「そんならその子を煮てみりゃあすぐにわかるだけ」というと、それではそうしてみゅうという事になって、煮えたぎっている釜の湯の中に、赤子を投 げ入れてしまっただって。赤子は「オギャア、オギャア」泣いて死んでしまって、石にもどらなんだげな。 おじいさんとおばあさんは、ごっつい怒って、二人の若者は、平あやまりにあやまったが、おじいさんとおばあさんはこらえてごされんで、二人を役人にひきわたすことにした。 ちょうどその時、旅のお坊さんが通りかかり、話を聞いたお坊さんは「二人を役人にひきわたしても死んだ赤子はもどりゃせん。それよりも二人の頭をまるめ坊さんにして 赤子の供養をさせた方がきっと赤子もうかばれるだろう」とすすめた。おじいさん達もその気になり、若者二人は坊さんになることになった。 ある日村の人が、帰ってこん二人の若者をさがしに出たら、狐にだまされて丸坊主になった二人が、河原で石をたたいて念仏を唱えとんなったちゅうこったで。 |